東京高等裁判所 昭和60年(行ケ)110号 判決
事実及び理由
一 請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決取消事由について判断する。
1 右当事者間に争いのない請求の原因二の本願考案の実用新案登録請求の範囲と成立に争いのない甲第三、第四号証により認められる本願明細書の考案の詳細な説明の項の記載によれば、従前の印刷装置においては、枚葉排紙装置と折機とを印刷機械の一部として設置し、用途に応じて使い分けることが行なわれているが、この場合、枚葉排紙装置又は折機の一方が稼働中は他方が停止し遊休状態となつているにかかわらず、それぞれの装置は独立しているため両装置分の設置スペースを必要とするとの欠点があつたこと、本願考案は「かかる点にかんがみなされたもので、印刷機械の設置スペースを縮小することを目的とするために折機の上部に枚葉排紙装置を搭載して、枚葉紙と折丁を同一方向に排出する枚葉排紙装置を搭載した折機を提供するもの」(甲第三号証二欄八ないし一二行)であり、このため前記実用新案登録請求の範囲に記載された構成を採用したものであり、これによつて、「機械設置のための床面積の縮小が可能になると共に、また折機と枚葉排紙装置が同一床上にあるところから機械の操作性も向上する。更に折丁と枚葉紙が同じ場所に集積されるため次工程へ搬送する装置を簡易化し得るなどの効果を有するものである」(同四欄二ないし七行)ことが認められる。すなわち、本願考案は、枚葉排紙装置を折機の上に搭載して一体化すること、折丁と枚葉紙を同方向に集積することを考案の骨子とするものであることが認められる。
これに対し、第一引用例に審決がその理由の要点2において認定したとおりの輪転印刷機用枚葉排紙装置付き折機が記載されていることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第五号証によれば、第一引用例の考案は、「従来の折機に、枚葉排紙装置を併設して一つの装置にまとめて枚葉排紙装置付き折機としたもの」(同号証明細書一〇頁五・六行)であつて、これにより、「従来の折機の空間部分を利用して、該空間部分に枚葉排紙装置を配設できるため、工場の設置スペースが少なくてすむ。」(同一〇頁一二ないし一四行)ことをその効果として有するものであることが認められる。
右事実によれば、本願考案と第一引用例の考案とは、ともに折機と枚葉排紙装置とを一体化する構成を採用し、これによつて設置面積の縮小を可能とする効果を奏する点において変るところはないことが明らかである。
もつとも、右の折機と枚葉排紙装置との一体化について、前掲甲号各証によれば、第一引用例の考案においては、設置スペースの縮小化の目的と並んで、折機と枚葉排紙装置とがそれぞれ独立した装置であるため、駆動装置・裁断装置・フレーム等の構成部品が重複して多くなり高価であること、折機と枚葉排紙装置それぞれに制御装置が必要で構成が複雑になるとの従来装置の欠点を解消するという目的のために、折機の裁断装置を枚葉排紙装置の裁断装置として兼用する等特段の工夫をしそのための構成を採用しているのに対し、本願考案においてはこのような特段の工夫をしそのための構成を採用することをその考案の要旨としていないことが認められ、この点において本願考案と第一引用例の考案とは差異があるということができる。しかしながら、第一引用例の考案において、その装置を折機として使用する場合、印刷部より排出される印刷物は裁断装置により所定の長さに裁断され、折たたみされて搬出され、また、枚葉排紙装置として使用される場合、印刷物は右裁断装置により裁断され、所定方向に集積されるものであつて、右裁断装置は、折機を使用する場合は折機の裁断装置として、枚葉排紙装置を使用する場合は枚葉排紙装置の裁断装置としてそれぞれ機能することが前掲甲第五号証により明らかである。そして、本願考案において、折機は「印刷部より排出される印刷物を所定の長さに裁断、折りたたみして搬出する折機」であればよく、枚葉排紙装置は「同折機の上方に搭載され前記印刷物を所定の長さに裁断して前記折機と同方向に集積する枚葉排紙装置」であればよいことは、前示本願考案の実用新案登録請求の範囲から明らかであるから、枚葉排紙装置の位置及び枚葉紙の集積方向を除けば、両者の枚葉排紙装置と折機とは相違するところはなく、前記裁断装置を兼用とするか否かの差異は、両者を対比する上で採り上げるべき差異とは認められず、結局、本願考案と第一引用例の考案との一致点、相違点についての審決の認定は正当であり、原告主張の誤りはないといわなければならない。
2 そこで、本願考案と第一引用例の考案の相違点の一つである本願考案においては枚葉排紙装置を折機の上に搭載しているのに対し、第一引用例の考案においてはこれらを同一面上に設置している点を検討する。
本願考案において枚葉排紙装置を折機の上に搭載する構成を採用したのは、これにより設置面積の縮小をもたらすためであることは前叙のとおりであるが、一般に同一平面上に置かれる二つの装置があるとき、その設置面積の縮小を図つて、一方の装置を他方の装置の上に載置するという考えがきわめてありふれた着想であることは経験則上明らかである。そして、印刷装置に関し、第二引用例に設置面積縮小のために印刷機の上に折機を設けたものが記載されていることは当事者間に争いがなく、また、第一引用例の考案が設置面積の縮小を目的として折機と枚葉排紙装置を一体化するものであることは前叙のとおりである。
そうとすれば、本願考案における枚葉排紙装置を折機の上に搭載するという構成は、第一、第二引用例に基づいて当業者が格別の考案力を要せずきわめて容易に考案できたものであることは明らかであるといわなければならない。
原告は、本願考案が枚葉排紙装置を搭載した折機と印刷機とは水平方向に配置されるものであることを前提として、本願考案と第二引用例のものとの相違を主張するが、本願考案が右原告主張の点をその要旨とするものではないことは前示本願考案の実用新案登録請求の範囲に照らし明らかであるから、原告の主張はその前提において誤りであり採用することができない。
次に、本願考案と第一引用例の考案の他の相違点である本願考案においては折機からの折丁と枚葉排紙装置からの枚葉紙を同方向に集積するものとなつているのに対し、第一引用例の考案においてはこれを反対方向に集積するものとなつている点について検討する。
前掲甲第五号証によれば、第一引用例には、その第一図(別紙図面・第1図)に従来装置を、その第二図(同第2図)に第一引用例の考案の実施例の装置が示されており、この各装置では折機と枚葉排紙装置の向きが異なるものであり、特に右第一図の従来装置においてはその構成上両者の向きをいずれにするかはその設置場所、次工程への搬送の容易性等を考慮して適宜決定できることが示唆されていると認められる。この事実によれば、本願考案において枚葉排紙装置を折機の上に搭載するにつきその向きを同方向とし折紙と枚葉紙を同方向に集積するものとすることに格別の考案力を要するとは認められない。
3 原告は本願考案の効果が各引用例から予測できない顕著なものと主張するが、本願明細書の考案の詳細な説明に記載された前記「床面積の縮小が可能となる」、「機械の操作性も向上する」、「次工程へ搬送する装置を簡易化し得る」との効果は、いずれも本願考案の構成を採用することにより当然予測できる効果であることが明らかであるから、これを格別顕著な効果ということはできない。原告は、室又は建物を特別のものとする必要がないこと、折機の上に枚葉排紙装置を搭載しても全体の高さを低くすることができることを本願考案の顕著な効果と主張するが、これらは折機と印刷機とが水平に配置される点に基づく効果であるところ、この点が本願考案の要旨でないことは前叙のとおりであるから、原告の右主張は採用することができない。
4 以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由は理由がなく、本願考案は第一、第二引用例に基づいて当業者がきわめて容易に考案したものとした審決の判断に誤りはなく、審決にこれを取り消すべき違法の点はない。
三 よつて、原告の本訴請求を失当として棄却することとする。
〔編註〕本願考案の実用新案登録請求の範囲は左のとおりである。
印刷部より排出される印刷物を所定の長さに裁断、折たたみして搬出する折機と、同折機の上方に搭載され前記印刷物を所定の長さに裁断して前記折機と同方向に集積する枚葉排紙装置とからなり、前記印刷物を前記折機あるいは枚葉紙装置のいずれかの経路を通すことによつて折丁または枚葉紙として同方向に集積し得るようにしたことを特徴とする枚葉排紙装置を搭載した折機。